院長のコラム第36回 田邊剛造先生を偲ぶ
恩師田辺先生が平成27年7月24日、逝去されました。91歳の大往生でした。
私は、大学病院で昭和54年から教授退官まで、その後岡山労災病院長時代までの約20年間、田辺先生のもとで指導をして頂きました。医学だけでなく、人間として多くの事を学びました。
先生の専門分野は、小児股関節ですが、その見識は整形外科全般にわたっていました。凛とした人間哲学があり、その指導は厳しく、身が縮む思いを何度も経験しました。
しかし、患者さん、特に子供に対してはどこまでも温かく、優しさに溢れていました。
その優しさの一つを紹介します。
田辺先生の業績は素晴らしいものですが、中でも先天性股関節脱臼の広範囲展開法(田辺式手術法)は、広く日本中に知られ、現在も数多くの病院で行われています。成績は世界でもトップです。先生が、幾多のつらい経験を経て開発された手術法でした。
股関節手術の際、皮膚に切開を加え、中を展開し、進入してゆきます。皮膚切開は、通常骨折などでは、縦切開(大腿の長軸に沿った切開)を用いますが、田辺法は横切開(大腿の長軸に直角の切開)を取り入れています。
なぜ横切開なのですかの質問に対する答えは、
「縦切開にすれば、ブルーマをはいても見える。横切開にして、それも少し近位にして、ブルーマをはいたら見えん位置にしたんじゃ」
手術だけのことでなく、子供の学校での生活を考えられてのことでした。
あらためて、田辺先生の指導を受け、教えをいただいた幸運に感謝しています。田辺先生が諭された「花川、平生を大事にせー」を心に留め置き、生きてゆきたいと思います。