院長のコラム第28回 宇宙飛行士 向井千秋さん
榊原病院懇話会には、毎年、各界の著名人が招待され、楽しみな講演が続いています。今年は第26回で、宇宙飛行士、向井千秋さんの講演を聴きました。どんな人だろう、と興味津々、出かけました。
講演は、宇宙飛行と宇宙医学についてでした。宇宙飛行の話では、懐かしい名前、言葉が出てきました。ガガーリン「地球は青かった」、テレシコワ「わたしはカモメ」、アポロ計画、スペースシャトル*****。ガガーリンが宇宙に飛び出したのが、1961年、約50数年の歴史です。宇宙滞在も次第に延長し現在は約半年滞在可能だそうです。火星への往復も、一般人の商業宇宙旅行も夢物語ではなくなってきていると感じました。向井さん自身は、宇宙飛行士は、軍人がなるものだと思っていたそうです。ところが、NASDA(現JAXA)が搭乗科学技術者として民間人を募集、毛利衛さん、土井隆雄さん、と向井さんが選定されました。毛利さんが1992年にエンデバーで最初に宇宙に行きました。向井さんは、1994年コロンビアに搭乗し、初飛行を経験しました。「怖くはないですか」の質問はよく受けたが、打ち上げの時は、期待の方が大きかったそうです。
「宇宙医学は究極の予防医学」とのタイトルが何度も出ました。宇宙飛行士に特化した医学なのかと、ぼんやり思っていましたが違っていました。1.骨粗鬆症 2.筋力低下 3.多量の宇宙放射線の問題 4.精神・心理面の問題 を挙げ、その成果は、私たち地上の医学に役だって来ています。私は整形外科医ですので、1.骨粗鬆症、2.筋力低下の問題に興味が湧きました。骨粗鬆症は、地上の10倍の速度で進行し、筋力は2倍の速さで弱化するのだそうです。毎日、運動を2時間、後の22時間は、無重力の中での生活、地上でいえば寝たきりの生活ですから、当然なことなのでしょう。ビスフォスホネート(骨粗鬆治療薬)が、骨量減少を防止した結果を聴いて、骨粗鬆症の予防は、「1に運動、2に食事、3,4が無くて5が薬」と患者さんに言ってきましたが、これからは、「1に運動、2に食事、3に薬」かなーと思いました。
一番印象に残ったのは、地球に帰還した時、重力があるので、立つことができる、という話の後、「重力、空気など平生感じないものへの感謝の念が出た」と言われたことです。
姿勢よく、はきはきと話され、気持ちの良いすばらしい講演でした。